- Ishikawa-legi
死んだことを知らない
Oさんに夕ご飯をごちそうになって、市中のホテルにたどり着いた時は、もう辺りは真っ暗でした。市中といっても、6年前に津波で破壊されたがれきを取り除いた後、市内はまったく復興しておらず更地&盛り土(土地を津波より高くしようとしている)が広がっている状態で、街灯も一切ないので、日が暮れると鼻をつままれてもわからないくらい真っ暗闇なのです。
闇の中を迷いに迷ったあげく、最近建てられたというそのホテルが突然目の前に現れ、私たちはその晩、そこに泊まりました。
一緒に行った女性は霊感がとても強いそうで、私は寝る前に彼女に頼んでおきました。
「もし夜中に誰か来たら、教えてね。」
そう言って頼んでおいたにもかかわらず、私は爆睡してしまい、気がついたら次の日の朝7時でした。
私は隣りのベッドの彼女に聞きました。
「ねえ、夕べ誰か来た?」
「うん、何人かのぞいていったよー。」と彼女は答えました。なんでも、夜何時頃かわからないけど、窓の外から順繰りに人がのぞいていった気配がしたそうです。「この部屋にどんな人が泊まってるかなあ」とふらっと見に来たという感じで、怖い感じは受けなかったそうです。自分たちが死んでいることを知らないんじゃないか、と言ってました。それから、寝ていて首のあたりが急に痛くなったりもしたそうです。
津波から6年も経っているのに、まだ自分が死んだことがわからないなんて、そんなことあるかなあ。きっとあの出来事は全然終わっていない、日本全体でも終わっていない、それどころか現在進行中でどんどん悪くなっている、だからかも。そんな気がしました。
それから、どうやら津波の犠牲者は“恨み”のようなネガティブな気持をもっていないらしい、ということも何となく感じました。それはとても日本人らしい、そして東北人らしいことだと思います。
[下の写真]
朝目覚めて、ホテルの部屋(2階)の窓からこんな風景が見えました。更地と盛り土が広がっていて、その向こうに湾が見えます。左に見える白い建物はそのまま残されている廃墟です。この辺りで1757人の犠牲者が出ました。ご冥福をお祈りいたします。
