• Ishikawa-legi

うやむや


家長なり、社長なり、長と名の付く人の大事な役目の一つは、正しく裁くことではないかと近頃思う。

ある80代男性の息子が嘆いていた。

「うちの家族は今まで一度もケンカしたことない。でもお父さんが嫌いで、嫌いでたまらない。」

「お父さんに父親らしいことひとつもしてもらったこともない。」

今まで一度もケンカしたことない家族、という話にも驚いたけど、そんなに平穏なのに嫌いだなんておかしいと思って、さらに聞いていった。すると、その家族には大きなトラブルがあったのに、お父さんがそれをうやむやに伏せた、当たらず障らずにした、という過去があったことがわかった。

30年以上前に、妹が20歳で妊娠した。相手は学生で、結婚はありえなかったそうだ。妹から妊娠を打ち明けられたお兄さんは、最初親には内緒にして、兄妹だけで始末しようとした。

ところが堕胎手術が失敗し、出血が止まらず、大きな病院に搬送されそこで子宮摘出術となった。この時点で親にはバレてしまったが、父親は叱らず、嘆かず、相手の学生に会おうともせず、なかったことにした。妹は23歳で自殺した。

「うっそー!お父さんは相手の学生をぶん殴りに行くべきだったのに!」と、私は思わず言った。「そうだね、でもそうしなかった。」と兄は答えた。

相手にも責任があるのだから、家族を守るためにお父さんは相手の所にきっちり話をしに行かなければならなかったのだ。それをあえてしなかった。ゴタゴタを避け、向き合うことを嫌った。事なかれ主義の最たるものだ。その結果妹は死んだ。

言うべきことを言わず、「言ってはいけない」「家族といえど他人のトラブルに踏み込んではいけない」という不文律・風潮はいつの頃からか日本を席巻している。

”長”であるならば、共同体のトラブルを正しく裁くことこそ、皆を、ひいては自分を守ることにつながると厳重に再確認せなばならない。

そして”正しく”というところもミソで、「裁かない」と同じくらい実は「誤って裁く」のも罪であると思う。長が誤って裁くと、下の者は地獄の苦しみだ。


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